東京高等裁判所 平成11年(く)320号 決定 1999年9月09日
少年 G・T(昭和59.12.20生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されたとおりであって、要するに、<1>後記(一)の窃盗及び(三)の無免許運転は平成11年6月10日の児童自立支援施設送致決定の前に行われた非行であり、しかも、(一)の窃盗についてはその調査の段階で明らかになっていたのであるから、これらを本件の非行事実として認定し保護処分決定をしたのはおかしい、<2>(一)の窃盗の共犯者は保護処分に付されていないこと、家庭裁判所、児童相談所、児童自立支援施設の誠明学園が同学園に戻って更生したいとの少年の希望をいったん了解していたことなどを考えると、少年を初等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである。
そこで検討すると、原決定が認定した本件非行の概要は、少年が、(一)A及びBと共謀の上、平成11年2月28日午後1時30分ころ、東京都大田区内の路上において、C所有の原動機付自転車1台(時価2万円相当)を窃取し〔非行事実第1〕、(二)同年7月18日午前7時ころ、同区内の路上において、D所有の自転車1台(時価5000円相当)を窃取し〔同第2〕、(三)公安委員会の運転免許を受けないで、同年1月28日午後10時5分ころ、同区内の道路において、第一種原動機付自転車を運転した〔同第3〕、というものである。
ところで、一件記録によると、少年は、平成11年6月10日、東京家庭裁判所において、「中学1年後半ころから両親を嫌い、平成10年6月ころから家出を繰り返し、非行性の高い者との交流を深めて通学せず、同年8月品川児童相談所に通告されて児童福祉司の指導を受けているが、改善は認められず、家出を繰り返し、無免許運転やオートバイ盗を犯し生活態度は悪化している。また、家出中は友人から高額な借金をするなど自由奔放な生活を重ね、怠惰で放縦な生活が身に付いている。さらに、平成11年3月25日東京家庭裁判所の在宅試験観察に付された後、父母の監護のもとで生活していたが、生活態度は改まらず、家の金を持ち出し、同年4月2日から12日までと、24日から26日までの2回家出し、26日に帰宅した際には、自ら児童自立支援施設への入所を希望し、30日東京都児童相談センター一時保護所に入所したものの、同年5月5日同保護所で知り合った他の少年と無断外出して帰所しなかった。このように、保護者の正当な監護に服さず、正当な理由なく家庭に寄り付かず、少年の性格等に照らして、将来、窃盗、恐喝、強盗、道路交通法違反等の罪を犯すおそれがある。」とのぐ犯事実により、児童自立支援施設送致決定を受けていることが明らかである。そして、前記(一)及び(三)の非行事実は、右ぐ犯保護事件の調査、審判の過程で、警察に確認するなどして具体的に明らかになっていたものであって、児童自立支援施設送致決定が少年のぐ犯性を根拠付ける事実として認定している「オートバイ盗」及び「無免許運転」というのは、(一)及び(三)の非行事実を指すか、少なくともこれらを含むものと認められる。
このように、ぐ犯保護事件において、特定の犯罪事実をぐ犯性を根拠付ける事実として認定し、一定の保護処分をしている場合には、少年法46条本文の趣旨にかんがみ、その犯罪事実を非行事実として更に審判に付することはできないと解するのが相当である。この点において、原決定には違法があるといわざるを得ない。
しかし、少年の処遇については、前記(二)の非行事実だけによっても、初等少年院送致が相当であると認められる。すなわち、少年は、平成11年6月10日在宅保護は困難であるとして前記のとおり児童自立支援施設送致決定を受け、誠明学園に入園したが、わずか3日後の同月13日同室の他の少年らと無断外出し、約2過間後の同月27日○○警察署に保護されて帰園したものの、3日後には再度同室の他の少年と無断外出し、野宿したり不良仲間と徘徊したりするうち、同年7月18日歩くのが嫌なので足代わりにする目的で(二)の非行に及んだものであって、児童自立支援施設送致処分もその効果を上げることができなかったことが認められる。このような少年の処遇歴、(二)の非行の経緯、内容等に照らすと、少年の非行性は相当に深化しているといえる。その主な原因は、少年の生活態度に対する内省の欠如、社会適応能力の乏しさ、保護者の監護能力の不十分さ等にあると認められ、もはや在宅保護や開放施設における保護は著しく困難であると考えられる。少年の健全な育成を図るには、少年をこれまでの生活環境から引き離して相当期間施設に収容し、規律正しい生活習慣と規範意識を身に付けさせ、社会生活への適応能力を高めさせることが必要であるから、少年を初等少年院に送致した原決定の処分は相当であるというべきである。
したがって、原決定が(一)及び(三)の非行事実を更に審判に付した違法は決定に影響を及ぼすものではなく、結局、本件抗告は理由がないことに帰するので、少年法33条1項、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 神田忠治 裁判官 羽渕清司 金谷暁)